催眠術取扱説明書「心構え」と「トラブル回避とトラブル処理」

 

 催眠術は本来とても楽しいものです。テレビなどで催眠術を見ると「操られてしまう」「意識がなくなる」など、ネガティブなイメージが付いていることもありますが、掛かっている人は楽しくて気持ちが良いと感じています。しかしながら、まだまだネガティブなイメージがあるのも確かなこと。そしてその1つの要因が、催眠術師の心構えや、正しく誘導していないことにあると感じます。

催眠術師があるべき心構えと正しい誘導をしていないと、「催眠術を掛けられてボーっとした状態が続いた」「無理やり誘導されて嫌な思いをした」「何人もの術師に誘導されても嫌だと言えずに疲れてしまった」などの感想が被験者から生まれてしまいます。人の心理というのは、ポジティブな感想よりもネガティブな感想に焦点が当たりやすいものです。少数の意見であったとしても、それが催眠術に対するイメージとして定着してしまいます。テレビの芸能人のお決まりのような「怪しい」「胡散臭い」「信じていない」という言葉も、ネガティブなイメージを固定化させている原因の一つです。

 

 私は催眠術師養成スクールで多くの人に催眠術を教えてきましたが、「心構え」「在り方」「トラブル回避とトラブル処理」の話をします。それはこのような考え方がベースにあるからです。

 

「催眠術の本当の成功とは現象が起こることではなく、被験者と催眠術師がお互い催眠術を楽しむことである」

 

 もし、すべての催眠術師がこのことを意識しながら誘導することができれば、きっと催眠術に対するイメージは良くなっていくのではないかと思います。そしてそれが、催眠術というこれまで距離を置かれて、敬遠もされてきた世界から解放されていくのではないかと思います。そこで私ができる事を考えたとき、いつもスクールで話している、地味だけど大事なこと「心構え」「トラブル回避とトラブル処理」について公開しようと思いました。

ただ、これから始めようと思っている人、まだ習得に至っていない人は、あまり今回の内容にとらわれずに練習をして欲しいと思います。なぜなら、あまり気にしすぎると、不安や恐怖から練習することを止めてしまうからです。そうなるといつまで経ってもうまくなりません。矛盾しますが、気に留める程度で「掛けたい」欲望を大事にして、ガンガン練習してください。

実を言うと、私自身がやり始めの頃に欲望にまかせてガンガン練習していました。「もうあなたの催眠術は体験したくない!」なんて言葉も何度か言われたことがあります。今から考えたら酷いことをしたなと思いますが、だからこそ上手くなったとも思っています。でも欲望にまかせた誘導だとどこかで限界がきます。誘導者の欲望は、相手に簡単に見透かされてしまいます。特に「掛かりたいけど不安や恐怖がある」という人を逃してしまいます。レベルの高い誘導者になるためには、この抵抗とどのように向き合っていくかが重要となります。

私の場合は、これまでの欲望にまかせた誘導を改めて、被験者目線で考えるようになりました。
「催眠術を楽しんでもらおう」
「何を求めているのだろうか?」
「どうすれば受け入れてもらえるのか?」
でもそれは、これまでの失敗があったからこそ気づいたことでもあります。

 

 ここまでの話で「なにも感じない」という人は、この先を見る必要はありません。そもそもどのように催眠誘導しようと自由ですし、地味な内容なので頭に入ってこないでしょう。
「催眠術の本当の成功とは現象が起こることではなく、被験者と催眠術師がお互い催眠術を楽しむことである」
私のこの思いに共感できる人だけ見て頂ければと思います。

 

催眠術師の心構え

 まずは「心構え」ですが、シンプルに3つにしました。この心構えがあっての「トラブル回避とトラブル処理」に繋がると思ってください。

①催眠術師が責任をもって誘導する

 催眠術は術師の自己責任において行ってください。
何かトラブルが起こったときもすべて術師の責任である、という自覚を持って誘導してください。この自覚がない人はトラブルも起こりやすくなり、起こったとしてもそのままにしてしまう傾向にあります。私は催眠術を体験した人からメールで「何とかしてほしい」と相談を受けることが多いのですが、内容を見るとかなりいい加減に誘導されていると感じます。正直、他の術師に誘導された人の対処をする義務はないので、丁重にお断りしています。

責任をもって誘導して、このような事態にも責任をもって対応してあげてください。

②なによりも被験者の安全確保

 催眠術に掛かりやすい人は、体が弛緩しやすい人が多いです。椅子からバタっと倒れてしまうこともあります。弛緩した体はとても重たくて、男性の私でも支えるのにしんどいときがあります。最悪の場合、一気に弛緩して頭を床にぶつけてしまいケガをさせてしまうこともあるでしょう。長年やっている私でも予想以上に弛緩するときがあり、支えるのがギリギリになることがあります。安全確保を第一に考えて誘導してください。せっかく催眠術に掛かっても、ケガをさせてしまったら元も子もありません。

対応法としては、まずは椅子選び。できる限り安定したもので足がつく椅子で誘導してください。ソファーは倒れても大丈夫なのでベストです。環境によってはBARなどにある高い椅子で誘導することもあるかもしれませんが、その場合は特に安全確保を強く意識してください。次に、倒れることを前提に立ち位置を決めることです。これは経験が必要ではありますが、慣れてくるとどっちの方向に倒れるかが分かるようになります。

最悪対応が遅れたときは、自分が下敷きになるつもりでいてください。 

③掛かりやすい人ほどしっかり完全覚醒をする

 催眠術に掛かりやすい人は、それだけ催眠状態も深まっています。催眠状態が深まると頭がボーっとしやすくなります。掛かりやすかった人ほどしっかりと完全覚醒をしてください。やらないと次のような反応が被験者に起こる可能性があります。

・1日中頭がボーっとした状態が続く
・頭痛や肩こりが起こる
・「自分は解けていないのではないか」と不安になる

「掛けたら解く」
催眠術における基本ルールであると頭に入れておいてください。ただし掛かりにくかった場合、初期誘導で終わった場合は、そのときの状況を判断してやるかどうかを決めてください。被験者が何らかの身体の変化を感じている場合は、必ず完全覚醒を行いましょう。

 

トラブル回避とトラブル処理

 「トラブル」と書くと不安になる人もいると思いますが、催眠術においてトラブルはそれほど起こるわけではありません。ただし、前述した「心構え」がなく、これからお話する「トラブル回避とトラブル処理」の意識がなければ、大きなトラブルになる可能性が高くなります。また、ある所までは催眠術師としてのレベルが上がるほどに起こりやすくなるでしょう。なぜならレベルが上がるということは、それだけ深い催眠状態へと誘導できるようになるからです。

本来、催眠状態が深まるほどに気持ちよくなり、催眠現象が起こりやすくなり、考えても出てこないようなアイデアやヒントが出てきやすくなります。催眠状態が深まることによって得られることがたくさんあります。しかし、逆に出なくてもいいものまで出てくることもあります。これを術師側で完全にコントロールすることは難しいと言えるでしょう。

だからこそ、「トラブル回避とトラブル処理」の知識を身に付けておくことがとても大切です。「トラブル回避」とは、出来る限りトラブルが起こらないようにする回避法。「トラブル処理」とは、トラブルが起こったときの対処法です。どれだけ気を付けていたとしても、起こってしまうのがトラブルです。どちらの知識も身に付けておくことで、ほぼ対応できるようになると思ってください。

 

トラブル回避

 まずは出来る限りトラブルを避けるための方法です。ただし前述したように、自己責任において誘導するのであればあなたの自由です。ここでは私がお勧めしている基準を紹介します。
カウンセリングやセラピーなどの知識と経験がある方なら、さらに範囲を広めてもいいでしょう。様々な催眠現象を起こすエンターテインメントとしての催眠術はとても楽しいものですが、人の心にもアクセスします。楽しい催眠術を掛けることを目的としていても、ネガティブな心に触れてしまうこともあるのです。そのときは、カウンセリングなどの技術が必要になることもあります。

①年齢(高校生以下は注意)

 高校生以下の人には、できる限り誘導しないことをお勧めします。基本的に催眠術は、10歳をピークにして年齢を重ねるごとに掛かりにくくなっていくと言われています。私の経験としては、小学生より言葉の理解力が高い中学生・高校生の方が掛かりやすいと思います。だからこそ練習すると楽しいのですが、まだまだ心が育っていないので、何が起こるか予想がつきません。また、子供の体験した感想と、親に伝わったときの親の感想は別物だと思ってください。「勝手に子供に催眠術を掛けられた!」なんて思う人もいるのです。

私が高校生以下に誘導するときは、親が同伴しているとき、親の同意を得ているとき、だけにしています。その場合も、記憶支配の現象は行わず初期誘導に留めています。

②精神疾患がある

 精神疾患がある人も注意してください。鬱、パニック障害、不安障害、摂食障害など、これも年齢と同じように何が起こるか予測できません。統合失調症、薬物中毒の場合は完全NGです。誘導だけでなく、何気ない一言がスイッチになって、症状を強化してしまうこともあります。
やる場合は、初期誘導までにしておくか、リラクゼーションの誘導をしてあげるといいでしょう。

③なんとなく「ヤバいかも」の感覚を大切に

 日常生活において「この人には近づかないでおこう」と思う人っていますよね。催眠術においても「この人には誘導しない方がいいかも」と思う人がいます。これは明確な基準はありませんが、自分の「ヤバいかも」という感覚を大切にしてください。だいたい当たっています。

④嫌がる人に無理に誘導しない

 多くの人にとって催眠術は一度は体験してみたいものです。でも、本当に嫌がる人もいます。その場合は無理に誘導しないでください。「やらないことも催眠術」です。

私の経験を一つ挙げておきます。ある集まりで催眠術をやることになり、一人の女性を指名されました。その女性は催眠術に対する恐怖が強くて「やりたくない」と拒否をしました。でもその場の雰囲気で誘導することになりました。その女性はとても掛かりやすい人で、簡単に記憶支配の現象まで誘導できました。周りは盛り上がっていたのですが、その女性の表情はこわばっています。そして催眠術に対する恐怖心が増して、イメージもさらに悪くなってしまいました。お互いが嫌な気持ちになる催眠術をやることに意味はありません。

「催眠術の本当の成功とは現象が起こることではなく、被験者と催眠術師がお互い催眠術を楽しむことである」
で考えても完全に失敗です。

 

トラブル処理

 どれだけトラブルが起こらないように気を付けていても、起こってしまうのがトラブルです。催眠術においてだいたい起こるトラブルは大きく2つです。そのときの対処法を紹介します。正直、初めてこのトラブルが起こったときはビビります。そしてほとんどの人は、間違った対処法を行ってしまいます。そうすると、対処するどころか、さらにドツボにはまってしまうでしょう。でもこのトラブル処理の内容を知っていれば、ビビりながらも対処できるようになります。

①催眠術が解けない、目覚めない

 完全覚醒をしても目覚めないことがあります。目を閉じて弛緩した状態から戻らないのです。この場合、ほとんどの人はもう一度完全覚醒をするでしょう。それでも目覚めなければもう一度行う。しかしそれは、逆効果になります。
そもそもなぜ目覚めないのか?を考えてみましょう。それはその状態がとても気持ちが良いからです。気持ちが良いから出たくないのです。ここを理解していなければ間違った対処法を行ってしまいます。

この場合は、解こうとするのではなく、深化法などでさらに催眠状態を深めてください。そして次の言葉を強調しながら完全覚醒を行ってください。
「あなたは今よりも、もっと気持ち良い状態で、頭も体も心もスッキリとして目覚めることができます」
要するに、「今の状態よりも、あなたにとって目覚める(覚醒)ことの方がメリットがある」、と認識させるのです。
最後に強めの衝撃を与えて覚醒すると、さらにいいでしょう。

覚醒した後は、ほっておくとまた深い催眠状態に入ってしまうので、一度外に出してあげてください。

②感情が噴出して止まらなくなる

 催眠術でできる素晴らしいことの一つに感情の解放があります。催眠状態が深まると心がオープンになり、本音の気持ちや感情が出やすくなります。催眠療法においては、これを利用して問題を解決するためのヒントや答えを潜在意識から引き出していきます。

楽しさが止まらないというような感情であればいいのですが、ネガティブな感情もあります。「怒り」「悲しみ」「嫉妬」など。日常生活では感情を抑え込んでしまうものです。社会人であればなおさらでしょう。感情は抑え込んでも消えるわけではありません。どこかで解放しなければ、少しずつ蓄積していきます。まるで噴火前の火山のように、溜まりに溜まっている人もいます。それが催眠術を体験することによって、一気に噴出してしまい、止まらなくなってしまうことがあるのです。お酒を飲むときも同じようなことがあります。

例えば「怒り」の感情が噴出して止まらなくなったとしましょう。この場合、いくら「怒りがなくなります」「楽しくなります」なんてやっても効果がありません。効果がないどころか、逆にその感情を強めてしまうかもしれません。
この場合は少し時間がかかりますが、怒りの感情を受け止めてあげてください。何に怒りを感じているかを聞いてあげてください。傾聴の技術を身に付けていればさらにいいでしょう。
感情を止めるのではなく、吐き出させることによって、自然に怒りの感情はおさまっていきます。

 

 

最後まで読まれた方は、とても意識が高い方だと思います。
そういう方が催眠術を習得して誘導していけば、きっとこの世界はもっと良くなっていくことでしょう。
最後に「トラブル回避とトラブル処理」の動画をプレゼントします。

https://youtu.be/7uwKpnIEvPE

今後もこの文章は、加執をしていきたいと思います。

 

 

お勧め記事!ぜひ読んでください。

「催眠術・催眠療法・催眠心理」で「独立・開業・副業」

なぜ催眠療法士は催眠術を習得したほうがいいのか?

 

 

催眠術
https://mindcreate.com/
催眠心理療法
http://saiminsinri.com/

One Response to “催眠術取扱説明書「心構え」と「トラブル回避とトラブル処理」”

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